初めてのコインランドリー
洗濯機を買ったものの、様々な手違いで未だ洗濯できる状態にはならず夏のこの日々参っていた。
昨日、調度駅から帰る途中にコインランドリーを見つけ今日は重い洗濯物達をバッグに詰めてペトペトと足を動かしやってきた。
店内は涼しく、白を基調とした清潔な部屋だ。
乾燥機と洗濯機が大きさ順にいくつも並んでいた。
いつもドラマや映画の中で見る風景に私は嬉しくなり、早速どんな役になりきるか考え始める。
何の目的もなくやる気もないフリーター女、これから巻き込まれていく事件の冒頭にこのコインランドリーはどうだろうか?
いや、少し明るいな。なにかの、aikoのような気だるいPOPのMVとかどうだろう?まあ、いいや。はやく洗濯しよう。
一つの洗濯機に洗濯物を放り込んだ。
しかし、動かし方がわからない。どうやらいくつもボタンがある、値段もコースによって違うらしい。
1000札は受け付けないのか、両替機はあるだろうか。
なんだこれ、難しい。
「お姉さん、洗濯するならこっちの洗濯機の方がいいよ。」
振り返ると椅子にオバサンが座っていた。太めの身体にラフなグレーのTシャツを着て、耳には赤いピアスをしていた。あき竹城に似てるなと思う。
「そっちは容量が大きくて高いし、乾燥洗濯機より別々に乾燥機と洗濯機を使った方がいい。」と、左にあるクリーム色の乾燥機を指した。
へえ、そんなのあるんだ。私はありがとうございますと言った。
このカゴ使っていいんだよ、いろいろとうるさくてごめんなさいねと笑いながらオバサンはいろいろとコインランドリーの使い方を教えてくれた。
羽毛布団を洗いに来たというオバサン。優しくて早速好きになった。
コインランドリーの使い方を教わっているうちに、自然と世間話になった。オバサンはとても話好きで自分の事をたくさん笑いながら話してくれる。
そんなオバサンと喋るうちに、楽しくなり、いつのまにか浸みていた寂しさに気がついた。
この寂しさが完全に滴るころになると私はまたベランダを見つめ始めるだろうなと思った。
オバサンには二人の娘がいる。次女が私と同い年だと判明して、また顔がほころびた。私も嬉しくなって偶然ですねと笑う。
娘二人が心配でたまらないというオバサンは、きっとあんたのお母さんも心配で心配でたまんないだろうよと笑う。それを聞くと私も、そりゃあそうだろうねと思う。だって自殺未遂しちゃうんだもん、子供の頃から自傷してばっかだもん。
「特にね、初めての子は本当にね、心配でさ。次女にはお姉ちゃんばっかりと言われても、親も初めてなもんでさ。」
私は両祖父母にとっても初孫で、何かと世話を焼かれ心配されお金もかけてもらった。
「仕方ないよねえ、そういう立場に生まれたからには仕方ない。」そう笑うオバサンの言葉を聞いて、仕方ないって概念は日本にしかないという雑学を思い出した。
仕方ないんだな。
私が初めて生まれた子供だったから、親が狂った時に道連れになり他への防波堤になり両親の関係を悪化させないようにバランスをとる役目は私だったのだ。仕方ないことだ。やり直せ、それが今かもなんて思った。悲観はしていない。
オバサンは羽毛布団の事を話し始めた。クリーニングに出すと8000円はかかるらしい。それがここでは1500円だからありがたいとまた笑っている。
クルクルと回る私の洗濯物。ブラウンのタオルと色とりどりのパンツ達。フリルが増えたな、こんなに持っていたっけな。
買ったんだった、だってかわいくて、誰かに相手して欲しくて。
そのうちに私の乾燥が終わった。
オバサンはまた、暖かいのを冷ましてからたたむ方がいいんだよと教えてくれた。
いろいろ教えてくれてありがとうございます、助かりました。たたみ終わった洗濯物をバッグに詰めながら言う。
オバサンはじゃあね、と言ってくれた。
人と話せて嬉しい。ここに来てよかった。